「80点以上しか載せない、と決めた日のこと」

「80点以上しか載せない、と決めた日のこと」

最初は、もっとたくさん載せるつもりだった

スクリーンに映し出されたスプレッドシートと口コミデータ。施設評価の分析作業の様子

正直に言うと、Haretoのサービスを立ち上げた当初、私たちは今よりずっと多くの施設を掲載しようと考えていました。

体験施設の情報メディアとして認知を広げるためには、まず量が必要だという考えがありました。「選べる施設が少ないと、ユーザーのニーズに応えられない」「コンテンツが増えれば検索でも見つけてもらいやすくなる」——そうした実務的な判断です。

スコアリングの仕組みは最初から用意していましたが、当初の掲載基準は今より低く設定していました。スコアが70点台の施設でも、掲載候補として検討に入れていたのです。

その段階では、掲載施設数を増やすことが成長の近道だと信じていました。SEOの観点からも、ページ数が増えれば検索流入が増える。施設一覧が充実していれば、初めて訪れたユーザーに「このメディアは情報が豊富だ」と思ってもらえる。そう考えていた時期が、確かにありました。

口コミを全文読んで、気づいたこと

転機は、スコアリングの検証作業の中で訪れました。

私たちは評価基準の精度を高めるために、掲載候補施設の口コミを一件ずつ全文読み込む作業をしていました。複数の主要な口コミプラットフォームに寄せられた、数十から数百の口コミを、ひとつひとつ丁寧に読んでいく。

星が4.0を超えている施設でも、口コミの中身を読むと異なる印象を受けることがありました。「悪くはなかった」「まあ楽しかった」「料金に見合っているかは微妙」——こうした感想が混在している施設と、「また行きたい」「友達に絶対勧める」「想像以上だった」という声が多くを占める施設では、明らかに「体験の質」が違う。

数値には表れにくいその差が、読めば読むほど鮮明になっていきました。

特に印象的だったのは、同じ「星4.0」でも口コミに込められた熱量がまるで違うケースです。ある施設の口コミには「普通に楽しめました」という淡白な感想が並んでいるのに対して、別の施設では「帰り道も、ずっとあの時間のことを話していた」「作った指輪を毎日眺めている」といった、体験が終わった後の時間にまで言及する声が集まっていました。星の数だけでは見えない「体験の余韻」が、口コミの行間に確かに存在していたのです。

「本当に満足できる体験」の輪郭

陶芸体験で丁寧に指導するインストラクターと、集中して作業する参加者

口コミを読み込む中で、私たちは「本当に満足できる体験」に共通するいくつかの要素に気づきました。

一つは、スタッフの関わり方です。ただ手順を説明するだけでなく、その人のペースに合わせてサポートしてくれる。初心者の不安を和らげる言葉をかけてくれる。そうした細やかな対応が、口コミに繰り返し登場する施設があります。

もう一つは、完成品への満足感です。体験後に手元に残る作品が、「思っていたより本格的」「これ自分で作ったとは思えない出来」という感動を生んでいる施設。その感動が、口コミという形で次の人への信頼につながっていく。

さらに、空間の質も無視できない要素でした。清潔感があり、適度な静けさが保たれ、作業に集中できる環境。写真映えするかどうかではなく、「この場所にいること自体が心地よい」と感じられる空間を提供している施設は、口コミの満足度が一段高い傾向がありました。

これらの要素が揃っている施設は、スコアを計算すると自然に高い点数になりました。逆に、スコアが70点台に留まる施設は、どこかで「惜しい」と感じる要素があった。

その気づきが、80点という基準を設けるきっかけになりました。

70点台の施設を外す、という痛み

80点という基準を設けるということは、70点台の施設をすべて掲載対象から外すということです。これは、数字で見るほど簡単な判断ではありませんでした。

70点台の施設にも、良い面はたくさんあります。スタッフの対応が素晴らしいけれど、口コミ件数がまだ少ない施設。体験内容は魅力的だけれど、予約動線がわかりにくく評価が分かれている施設。将来的にスコアが伸びる可能性を秘めた施設も、現時点では掲載対象にはなりません。

掲載候補リストから一つずつ施設を外していく作業には、正直なところ、心理的な負担がありました。「この施設も十分いいのに」という思いと、「でも、Haretoとして自信を持って勧められるか」という問いのあいだで、何度も揺れました。

それでも、「まあまあ良い」と「本当に良い」のあいだには、読者にとって無視できない差がある。その差を曖昧にしないことが、キュレーションメディアとしての誠実さだと結論づけました。

数より信頼を選ぶということ

80点という数字自体に、特別な意味があるわけではありません。私たちが「この施設に行って外れる可能性が極めて低い」と自信を持って言えるラインを探した結果が、80点でした。

掲載施設数が少なくなることは、はじめからわかっていました。量を追えば認知は広がるかもしれない。でも、「Haretoで紹介されていた施設に行ったけど、大したことなかった」という体験を一人でもしてもらったら、そのメディアへの信頼は永遠に失われます。

読者が「Haretoに載っている施設なら、大丈夫」と思えること。その信頼を積み上げることが、長い目で見たときにHaretoの価値になると判断しました。

この判断の背景には、私たちが体験メディアに対して日頃感じていた課題もあります。多くのメディアでは、掲載施設が増えるほど「当たり外れ」が生まれ、読者は結局、口コミや比較を自分でやり直すことになります。それでは、メディアの存在意義が薄れてしまいます。Haretoを訪れた読者には、「ここで選べば自分で口コミを掘り返す必要がない」という安心感を提供したいのです。

基準を下げない、という覚悟

完成した革製品を手に満足そうに微笑む参加者。「行って良かった」という体験の瞬間

80点という基準は、運用を続けるほど維持が難しくなります。掲載施設が増えないと、メディアとしての幅は広がりません。「もう少し基準を緩めれば、もっと多くの施設を紹介できるのに」という声は、内部でも出ることがあります。

それでも、基準は下げません。

なぜなら、Haretoが信頼されているのは「80点以上しか載せない」という一点にあると、私たちは理解しているからです。その原則を崩した瞬間に、Haretoはその他大勢の体験情報サイトと同じになってしまう。

基準を維持するために、私たちは別のアプローチで対応しています。たとえば、まだ口コミが十分に蓄積されていない新しい施設については、定期的にスコアを再評価する仕組みを設けています。開業直後は情報不足でスコアが伸びなくても、口コミが増え、体験の質が安定すれば、自然とスコアは上がります。基準を下げるのではなく、良い施設が基準に到達するのを待つ。その姿勢を大切にしています。

基準を設けることは、同時に多くのものを諦めることでもあります。それでも、「この体験は本当に良かった」と言えるものだけを届けたい。その覚悟が、Haretoの掲載基準を支えています。

読者の皆さんが「どこに行っても外れがない」と感じてくださるために、私たちはこれからもこの基準を守り続けます。