ガイドブックではなく、キュレーション。Haretoが選んだ立ち位置

ガイドブックではなく、キュレーション。Haretoが選んだ立ち位置

「全部載っている」ということの落とし穴

体験を探しているとき、検索結果に何百件もの施設が並ぶ画面を、誰しも一度は見たことがあると思います。エリアで絞り込み、ジャンルで絞り込み、口コミ件数で並べ替え——それでもまだ、選びきれない。

情報が多いほど良い選択ができる、というのは直感的にはそう思えます。ところが実際には、選択肢が多すぎる状態は、選ぶことそのものを難しくします。「行動経済学でいうところの選択のパラドックス」と呼ばれる現象です。

私たちHaretoがメディアを立ち上げるとき、最も悩んだのが、この「載せる量」の問題でした。エリアごと、ジャンルごとに、できるだけ多くの施設を載せたほうが、ユーザーの役に立てるはずだ——最初はそう考えていました。

しかし、私たちが目指していたのは、「行ってよかった」と心から思える体験を選ぶための場所です。それを「全部載せる」発想で実現することは、構造的に難しいことに気づきました。

ガイドブックの強みと、その限界

街の本屋に並ぶ旅行ガイドや、ウェブ上の体験情報サイト。これらの多くは「ガイドブック」型のメディアです。あるエリアの主要な施設を網羅し、基本情報を整理して、読者に提示する。

ガイドブック型の最大の強みは、網羅性と中立性です。「とりあえずこのエリアにある体験施設の全体像を把握したい」というニーズに、もっとも応えられる構造になっています。

ただし、網羅性を担保するためには、ある制約が必ず生まれます。それは、載せる施設一つひとつへの評価が薄くなるということです。100件を載せれば、1件あたりに割ける紙幅や調査リソースは限られます。結果として、「全部それなりに良さそうに見える」記事になりがちです。

読者の立場で考えてみると、これは少し残念な状況です。せっかく数十件の選択肢を見比べたのに、「結局どこに行けば失敗しないのか」が分からないままになる。最後は口コミの星の数や、写真の印象で決めることになる——多くの体験選びが、こうして「直感頼みのギャンブル」になってしまっています。

キュレーションが引き受けるもの

私たちが選んだのは、その対極にある立ち位置です。情報を網羅するのではなく、信頼できる体験を選び抜いて並べる。これがキュレーションです。

キュレーションには、ガイドブックにはない責任が伴います。「全部載せる」のではなく「これを推す」と言う以上、その判断の根拠を明示しなければなりません。なぜこの施設は載っていて、別の施設は載っていないのか。読者がその問いを投げかけたときに、答えられる準備が必要です。

Haretoでは、その答えとしてスコアリングという仕組みを選びました。複数の口コミプラットフォームを横断して施設を評価し、100点満点中80点を超えたものだけを掲載する。スコアの算出基準はサイト上で公開しています。「どんな基準で選ばれているか分からない」という不透明さを、可能な限り取り除きたかったからです。

それでも、スコアだけがすべてではありません。スコアは口コミデータをもとにした定量評価ですが、その背後で私たちは編集部として「この体験は本当に推せるか」を一件ずつ確認しています。点数が出たから自動的に載せる、というやり方は採っていません。

「載せない」を堂々と言える場所

キュレーション型メディアの真価は、何を載せるかではなく、何を載せないかにあらわれます

掲載基準を80点と決めた以上、79点の施設は載りません。「あと一歩」で惜しいと感じる施設も少なくありません。施設側から掲載してほしいという依頼を受けても、基準を満たしていなければお断りすることになります。

これは私たちにとっても気が重い判断です。施設の方々はそれぞれに想いを持って体験を提供しています。その努力を、80点という線引きで「載せない」と決めるのは、簡単な判断ではありません。

それでも、この線引きを守ることが、読者に対する誠実さだと考えています。「ここに載っているなら、本当に良い体験ができる」と思ってもらうためには、「載せないこともある」という姿勢が裏で支えていなければなりません。載らない施設があるからこそ、載っている施設の意味が立ち上がる——これがキュレーションの構造です。

数を絞ることで、深さが生まれる

掲載数を絞ったことで、一件あたりに割けるリソースが大きく変わりました。

施設ページには、口コミデータをもとに「どんな人に向いているか」「どのオケージョンに合うか」を整理しています。料金、所要時間、英語対応の有無、最寄り駅からのアクセスといった実務情報も、掲載前に確認しています。SNSやウェブサイトの最新の運営状況もチェックし、休業や移転の情報があれば反映します。

100件を浅く載せるのではなく、80件を深く載せる。1件あたりの解像度が高いことが、キュレーションの差別化になると考えています。

ガイドブックを否定したいわけではありません。網羅性が必要な場面では、ガイドブック型メディアの方が役に立ちます。地図上のすべての施設を一覧したいとき、エリアの全体像を把握したいとき、ガイドブックは強力なツールです。

ただ、「失敗したくない一回」を選ぶときには、別の道具が必要です。網羅ではなく、選別。情報量ではなく、判断材料。それを提供するのが、Haretoが選んだキュレーションという立ち位置です。

読者の時間を、無駄にしない約束

最後に、もう一つだけ書き残しておきたいことがあります。

キュレーションは、「読者の時間を奪わない」という約束でもあります。何百件の選択肢を見比べる時間、口コミを読み解く時間、嘘か本当か判断する時間——本来、体験を楽しむために使うべき時間が、選ぶ作業に消費されてしまうことが少なくありません。

Haretoが目指すのは、その時間を最小化することです。選ぶ手間を私たちが引き受けるから、読者は安心して体験そのものに向き合ってほしい。それが、ガイドブックではなくキュレーションを選んだ、もう一つの理由です。

何百件の中から正解を探す疲れを、もう一度味わわなくていい。Haretoを開いたときに、「ここから選べば大丈夫」と思える安心を、これからも積み重ねていきたいと考えています。