「載せる」より「載せない」の方が、判断が難しい
メディアを運営していて、強く実感していることがあります。それは、「載せない」という判断は、「載せる」という判断より、ずっと重いということです。
掲載する施設を選ぶときは、その体験の良さを言葉にして、読者に伝える作業に向き合います。やりがいがあって、メディアとしての存在意義を感じる時間です。
一方、掲載しない施設を決めるときは、別の感情と向き合うことになります。「この施設にも素晴らしい人が働いている」「努力を積み重ねている事業者の方々がいる」——そう分かっていながら、スコアが80点に届かないという理由で、Haretoには載らないと決める。そこには、簡単に割り切れない感情があります。
それでも、私たちは「載せない」を選び続けます。本記事では、その判断の根拠と、基準未満の施設に対して取っている姿勢について、できるだけ正直に書きます。
80点の線引きは、なぜ動かさないのか
Haretoの掲載基準は、100点満点中80点以上です。この線引きは、サービスを始めた頃から変えていません。
「もう少し基準を下げれば、もっと多くの施設を載せられるのに」と感じることはあります。特に、地方の小さな施設や、開業して間もない施設に対しては、口コミデータが少ないことで点数が伸びにくく、本来の体験の質に見合わないスコアになることがあります。
それでも、線引きを動かさないのは、基準を下げた瞬間に、メディア全体の信頼が崩れるからです。
「Haretoに載っているなら、たしかに行ってよかったと思える」という読者の信頼は、80点という線が守られていることで成立しています。一度でも「お情けで載せた施設」が混ざってしまえば、その線は形骸化します。読者は「載っている=信頼できる」と思えなくなり、ランキングや星の数を再び自分で見比べる作業に戻ることになります。
線引きを動かさないことは、載っている施設に対する敬意でもあります。基準を守って選ばれた施設と、特例で載せられた施設が、同じ枠に並んでしまえば、前者の価値が薄まります。基準を厳しく保つことが、掲載されている施設の意味を支えているのです。
79点を「落とす」とき、編集部が見ているもの
実際の編集作業のなかで、79点や78点の施設に出会うことは少なくありません。「あと一歩」で掲載に届く施設たちです。
こうした施設に対しては、私たちは時間をかけて口コミを読み込みます。スコアは口コミデータをもとにした定量評価ですが、その背後にある質的な要素を確認します。「点数を上乗せできる根拠が、見落とされていないか」「集計のタイミングが古くて、最新の改善が反映されていないか」——そういう観点で見直しをします。
それでも、最終的に80点に届かなかった施設は、載せません。線引きを「揺らがせない」ことが、線引きの意味を作るからです。
ただし、こうした施設に対して私たちが取る姿勢があります。「落とす」という言葉を使わないことです。Haretoは点数を測るためのサービスではなく、読者に「行ってよかった」を届けるためのメディアです。施設は採点される対象ではなく、その施設なりの体験を提供している事業者の方々です。
スコアが基準に届かなかったとしても、その施設に「価値がない」と言っているわけではありません。あくまで、Haretoというメディアが採用している軸に対して、現時点では適合しなかったということだけです。
施設からの掲載依頼を、どう扱うか
メディアを続けていると、施設の方から「掲載してほしい」というご連絡をいただくことがあります。とてもありがたいご連絡です。
ただし、私たちはこうした依頼があっても、掲載判断に手心を加えることはありません。スコアリングは独立した基準で行われ、依頼の有無は評価に一切影響しません。これはサービス開始時から続けている運用ルールです。
依頼をいただいた施設のスコアが80点に達していなかった場合は、現状ではHaretoには掲載できない旨を、率直にお伝えしています。「もう少し時間が経って口コミが充実すれば、評価が変わる可能性があります」と添えることもありますが、「載せます」と約束することはありません。
これは、施設の方々にとって冷たい対応に映るかもしれません。でも、ここを揺らがせれば、Haretoは「依頼すれば載るメディア」になります。そういうメディアにはなりたくない、というのが私たちの一貫した立場です。
依頼を断る一方で、私たちが意識していることがあります。それは、断る理由を曖昧にしないということです。「審査の結果」「総合的な判断」といった抽象的な言い回しは使わないようにしています。スコアの仕組みと現時点の点数、改善されうる項目があれば具体的に。そういうコミュニケーションを心がけています。
「マイスポット」というアイデアと、その慎重さ
ユーザーの方から、「自分が良いと思った施設を、Haretoのページに追加できるようにしてほしい」というご要望をいただくことがあります。気持ちは非常によく分かります。
ただ、これを安易に実装すると、メディアの基準が崩れます。「ユーザーが推した施設」と「編集部が基準を満たすと判断した施設」が、同じ画面に並ぶのは、Haretoが目指しているキュレーションとは別の構造です。
将来的には、ユーザーが個人のマイページのなかで「気になるスポット」を保存できる機能の検討は進めています。ただし、それはあくまで「個人の保存」であって、メディア全体に公開されるものではありません。掲載判断の基準を、個人の好みで揺らがせないこと——それが、キュレーション型メディアの最低限の規律だと考えています。
「載せない」という静かな仕事
メディアの仕事の多くは、「載せる」側の作業として表に出ます。新しい記事、新しい施設、新しい特集。読者が目にするのは、そうした「載った」コンテンツです。
しかし、その背後には「載せなかった」たくさんの判断があります。基準に届かなかった施設、掲載しないと決めた特集、書きかけて没にしたコラム。これらは表には出ません。
それでも、メディアの質は「載せなかったもの」の総和で決まります。何を載せるかと同じくらい、何を載せないか。後者を慎重に守り続けることが、Haretoというメディアの輪郭を作っています。
「載せない」を選ぶことには、いつも一定の心の重さがあります。それは私たちが負うべき重さだと、覚悟して受け止めています。


